東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)111号 判決 1985年9月26日
千葉市原町八二三番地
原告
坂本宗幸
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被告
特許庁長官
宇賀道郎
右指定代理人
前原清美
村越祐輔
山本邦三郎
右当事者間の昭和五七年(行ケ)第一一一号審決(特許出願拒絶査定不服審判の審決)取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
原告は、「特許庁が、昭和五七年三月五日、同庁昭和五四年審判第六二三〇号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第二 請求の原因
原告は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四八年一〇月一日、発明の名称を「管輸送における途中加圧の方法」(後に「管外加圧法」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をし、昭和四九年二月二一日付で第五図を追加する補正、昭和五一年四月六日付で第六図を追加する補正をそれぞれしたが、昭和五四年四月五日、右特許出願について拒絶査定を受けたので、同年六月一三日、これに対する不服の審判を請求(昭和五四年審判第六二三〇号事件)するとともに、同年七月三日付で明細書の全文を補正したけれども、特許庁は、昭和五七年三月五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月二八日、原告に送達された。
二 本願発明の要旨
流体によるパイプ輸送において、本管の一橫断面上に吸入口の前縁と吐出口の後縁が接するようにし、被輸送物が吸入流から吐出流へ直接移送されるようにしたことを特徴とする中間加圧の方法。(別紙図面(一)参照)
三 本件審決理由の要点
1 本願発明の要旨は、前項記載のとおりと認められるところ、昭和五三年二月二二日付拒絶理由通知で引用した米国特許第三、〇三八、七六〇号明細書(以下「引用例」という。)には、ダムとか滝のある所の下部位置にある貯水池から導水管を上方に向けて配設し、その導水管の上端部をダム及ぴ滝の上部にある貯水池への導入開口部に接続し、その導水管の中間位置に適宜間隔をあけて多孔壁面を形成した管路部分を設け、その多孔壁面の外部に昇圧用ポンプ装置を設け、前記多孔壁面の開口部を吸水孔とし、ポンプを介在して、そのポンプの吐出孔を、前記多孔壁面の部分の前方位置に設け、導水管の下方位置から上方位置に向けて連続的な水の流れを形成し、その導水管中の活き魚を下方から上方に泳がせて移動させる魚道により魚を下方から上方に移動させる方法が記載されている。(別紙図面(二)参照)
2 そこで、本願発明と引用例記載の発明とを対比するに、流体をパイプ内に流して、その流体の流れる力を利用して物を運ぶパイプ輸送におけるパイプ内の流体を加圧して、水流をつくるためにそのパイプの途中の適宜位置に複数の管外昇圧装置を配設した点、それらの管外昇圧装置の吸込口をパイプの適宜位置に設け、前記管外昇圧装置の吐出口を前記吸込口の近隣位置に設けた点及び上記パイプの下方位置から上方位置に向けて連続的な水の流れを形成した点において両者は同一であるが、本願発明が、流体を満たしたパイプ内を被輸送物がそのパイプ内の流体の流れに従つて移送されるのであつて、本願発明の輪送の対象物が被輸送物であるのに対し、引用例記載の発明の対象が、自力で泳ぐことが可能な活き魚を対象としている点で、本願発明と引用例記載の発明とは僅かに相違する。しかしながら、流水路を利用して、その流水路における水の流れに従つて所望の種々の物品を輸送することは、従来普通に知られていることである。そこで、引用例に記載された管路内の水中を移動する活き魚も、従来周知の流水路中を流れて運ばれる種々の物品も、水流に従つて流されて移送させられる点においては全く同じである。
3 したがつて、本願発明は、引用例記載の発明と同一に帰し、特許法第二九条第一項第三号の規定により特許を受けることができない。
四 本件審決を取り消すべき事由
本件審決は、本願発明と引用例記載の発明との構成上及び効果上の差異を看過した結果、本願発明は引用例記載の発明と同一であるとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取り消されるべきである。すなわち、
1 本願発明は、本管の一横断面に吸入口の前縁と吐出口の後縁が接するようにして、被輸送物を、吸入口と吐出口との間の流体自体の流れによらないで、吸水流から吐出流へ直接移送させるようにしたことを特徴とする中間加圧の方法であるところ、引用例には、このような技術的思想は記載されていない。すなわち、本願発明の当初の明細書には、「カプセル7は後から来るカプセルに押されて吐出口5に達し圧送させる」(甲第二号証の一の第二頁第九行ないし第一一行)旨記載され、また、昭和四九年二月二一日付手続補正書には、「この際吸入口4、吐出口5は出来るだけ接近させる事が必要である」(甲第二号証の二の第二頁第五、第六行)旨記載されており、右記載によれば、本願発明は、本管の一横断面上に吸入口の前縁と吐出口の後縁とをできるだけ接近させ、被輸送物を吸入流がら吐出流へ直接受け渡すようにしたものであることが明らかである。なお、全文訂正明細書には、「この様なことが理想的に行われると流体の一部も吸入流から吐出流へ直接流れる様になり」(甲第二号証の七の第五頁第一九、第二〇行)と記載されているが、これは、カプセルの流動につれてこのようなことになるという二次的効果を述べたものにすぎず、被輸送物を吸入流から吐出流へ直接受け渡すようにしたことと矛盾するものではない。これに対し、引用例記載の方法においては、吸水孔が縦横に分散していて、最前列の吸水孔は別としても、その他の吸水孔の前縁と吐出孔の後縁とは接しておらず、吸水孔と吐出孔との間に若干のすきまがあり、この場合には、ポンプが強力に働いて本管の水を吸い込み、吐出孔におけるジエツト効果が大きくなると、吸水孔と吐出孔との間のすきまを流れる水は多くなり、そうすると、ポンプの方を流れる水は減り、ジエツト効果が少なくなり、吸水孔と吐出孔との間のすきまを流れる水は少なくなり、そうすると、ポンプの方を流れる水が多くなり、ジエツト効果が大きくなり、吸水孔と吐出孔との間のすきまの流れが多くなるという状態を繰り返し、自然に釣合いができて、結局、吸水孔と吐出孔との間のすきまには流れが生じなくなり、上部の水の重さが負荷されると、流れが逆流することもありうるのであつて、引用例記載の方法は、本件審決の認定するように、「導水管の下方位置から上方位置に向けて連続的な水の流れを形成し」ておらず、元来実施不可能なものである。そこで、本願発明では、吸入口の前縁と吐出口の後縁とを接するようにして、吐出流の一部が逆流しようとしても、吸入流の水衝圧でこれを阻止することにしたものであり、ポンプが働いて吐出流が増え、吐出圧が高まるにつれて、吸入流の流量、流速も増え、益々強い壁となつて逆流を阻止するのであつて、そのような壁によつて吸入口と吐出口との間のすきまに直接流れが生じなくとも、流れが生じたのと同じ結果を得たのであるが、引用例にはこのような技術的思想は全く記載されていない。引用例記載の方法は、ジエツト効果によつて上昇流を生ぜしめようとしたのであろうが、前述のとおり、吸水孔と吐出孔との間にすきまがあるため、上昇流は生じないし、仮に、ジエツト効果が有効に作用するものであるとすれば、吸水孔と吐出孔との間にすきまがあつても、そのような作用を生じたということであつて、その原因は、ポンプを接近した位置に数段配置したことによるものであろう。
2 右のとおりであつて、本願発明は、引用例記載の発明と同一であるとはいえない。
第三 被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として、次のとあり述べた。
一 請求の原因一ないし三の事実は、認める。
二 同四の主張は、争う。本件審決の認定判断は正当であり、原告が主張するような違法の点はない。
1 本願発明の明細書及び図面によれば、本願発明の基本原理は、流体によるパイプ輸送において、輸送距離が長い場合は、輸送用パイプ内の流体の圧力の低下により輸送ができなくなるおそれがあるので、輸送用パイプの中間の適宜位置に管外加圧装置を適宜配設することにより、輸送用パイプ内の流体の圧力を低下させないようにすることにある。そして、その具体的構成をみるに、第一図ないし第六図に、中間加圧の方法の各種実施例が記載され、そこには、中間加圧のための管外加圧装置として各種のポンプを使用することが示されており、本願発明の中間加圧の方法が、管外加圧装置による中間加圧手段によつて遂行されることが確認され、また、第一図及び第三図によると、中間加圧手段としての管外加圧ポンプの吸入口と吐出口とが、管の軸線方向に互いにある間隔をとつて配設されていて、吸入口の前縁と吐出口の後縁との間に、ある長さの間隔があることが示されており、その他の実施例でも、吐出口と吸入口との間隔がなくなり、吐出口と吸入口とが完全に接触するようになつているものはないのであつて、本願発明の明細書の特許請求の範囲の項に記載の「吸入口の前縁と吐出口の後縁が接する様にし」という構成は、吸入口の前縁と吐出口の後縁がある間隔だけ離れているものをも含むものであつて、右の「接する」というのは、近接していることを意味するものと認められ、更に、中間加圧のための管外加圧ポンプの吸入口から流体を吸入し、その吐出口から流体を吐出させて中間加圧を行い、管内の移動流体中の被輸送物が吸入流から吐出流へ直接移送されるようにしたものであつて、中間加圧により管の一方から他方へ向けて流体の移動を可能とし、この移動する流体中に被輸送物を存在させて被輸送物の移送を行うものと認められる。これに対し、引用例には、本件審決が認定するとおりの発明が記載されており、引用例記載の図面からも明らかなように、導水管の一横断面上に昇圧用ポンプ装置のポンプの吸水孔となる多孔壁面の開口部を配設し、その開口部の前方位置に、昇圧用ポンプ装置のポンプの吐出孔を設け、吸水孔と吐出孔とは導水管の一横断面上に設けられており、また、吸水孔と吐出孔との位置関係については、多孔壁面の開口部が、導水管の周壁面に導水管の軸線方向に向けて任意の数だけ分散して開孔されており、その先端側、つまり上流側の開口部が、吐出孔の位置とほとんど同じ位置に配設されているのであつて、吸水孔と吐出孔とが近接して配設されていることが認められる。したがつて、引用例には、本願発明と同一の技術的思想が開示されているものというべきである。
原告は、引用例記載の方法においては、吸水孔が縦横に分散していて、吸水孔の前縁と吐出孔の後縁とは接しておらず、吸水孔と吐出孔との間に若干のすきまがあり、ジエツト効果を利用しても、右のすきまには水の流れが生じなくなり、逆流することもありうる旨主張する。しかし、引用例記載の魚道は、下方から上方へ向けて流れる水流に魚をのせて運ぶことに本来の意味があり、管外昇圧装置のポンプによつて発生した高圧流を噴流として大径管路内に噴出させ、大径管路内の下方から上方に向けて連続水流を生じさせて、下方の魚を上方に運ばなければならないのであるから、大径管路の周側壁から管路内に向けて設けた噴出ノズルの向きを大径管路の管の長手方向の下方から上方に向け、噴出ノズルからの噴流が下方から上方に向けて生じるようにし、逆流などが生じないよう配慮されているものであり、また、ポンプ装置の吸入部に大径管路の前後方向にわたつて多数の小孔が配設されているのは、大径管路内の流水中を泳いでいる魚がポンプ装置の内部に吸い込まれないようにするためであり、水の噴出に必要な水量を吸入するためには、吸入口の大きさ、形状及び位置等が別途配慮されており、更に、大径管路に魚道を構成するのに適切な管外昇圧装置が配設されているのであり、したかつて、引用例記載の発明においては、連続的な水の流れか形成されているのであつて、流れが逆流するようなことはありえない。もつとも、引用例記載の発明の管外昇圧装置の吐出孔の形状は、噴出ノズルであるのに対し、本願発明の特許請求の範囲では、本願発明の管外昇圧装置の吐出口の形状は特定形状に限定されていないが、本願発明の全文訂正明細書には、「第五図は普通のポンプを用いた場合の基本的配管要領を示す説明図で吸入、吐出管15、16の数、位置、方向を自由に選定できる。吐出口5は吸入口4より細くノズル状とし吐出流が吸入圧に依つて引戻されるのを防ぐと共に、本管1の内壁に衝突して勢力を損耗しない様本管の流に対し成可く鋭角で、且吸入口4を越えて吐出口5に頭を出すカプセル7に直ぐに当る様にしなければならない。」(甲第二号証の七の第五頁第七行ないし第一六行)と記載されており、右記載内容によれば、本願発明の実施例の一つである第五図に示された管外昇圧装置のポンプの吐出口の口径は吸入口の口径より細く、特にノズル状をしているのであつて、本願発明の管外昇圧装置の吐出口の形状が、引用例記載の発明の管外昇圧装置の噴射ノズル状吐出孔をも含んだ形状であることが理解されるところであり、したがつて、吐出口の具体的形状においても、両者に実質的な差異はない。
2 右のとおりであつて、本願発明は、引用例記載の発明と相違するところはない。
第三 証拠関係
本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決が本願発明と引用例記載の発明との構成上及び作用効果上の差異を看過して、誤つた結論を導いたものである旨主張するが、次に説示するとおり、本件審決の認定、判断は正当であり、原告の主張は、理由がないものというべきである。
前記当事者間に争いのない本願発明の要旨並びに成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明の願書、明細書及び図面第一図ないし第四図)、第二号証の二(昭和四九年二月二一日付手続補正書―第五図添附)、第二号証の四(昭和五一年四月六日付手続補正書―第六図添附)及び第二号証の七(昭和五四年七月三日付手続補正書―全文訂正明細書)によれば、本願発明は、液体によるカプセル等のパイプ輸送において、パイプ中の流体の圧力が低下するので、パイプの途中にポンプを用いた管外加圧装置を設置してパイプ中の流体の圧力を加圧し、緩徐な速度から高速度まで、かつ、距離に制限のない広範囲のパイプ輸送を可能とした管外加圧法であり、具体的な構成として、本管1の途中にバイパス2を設け、これにポンプ17を用いた加圧装置を配置して、バイパス2の吸入口4から本管1の水を吸入し、これを加圧してバイパス2の吐出口5から本管1に吐出して流体を加圧するという方法を採ることにしたが、吐出流によるジェット効果があつても、これが吸入圧に勝つことは困難で、吐出流の部が引き戻されるという現象が生じ、これを妨ぐためには吸入口4と吐出口5との間をできるだけ短くする必要があるとの知見に基づき、流体によるパイプ輸送において、「本管の一横断面上に吸入口の前縁と吐出口の後縁が接する様にし、被輸送物が吸入流から吐出流へ直接移送される様にする」という本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成を採用したものであることが認められるところ、前掲各号証によれば、本願発明の明細書及び図面には、吸入口の前縁と吐出口の後縁とが完全に接していること、及びパイプ中の流体がすべて加圧装置の設置されているバイパスに流れ、加圧されてパイプに戻され、その間、吸入口と吐出口との間のパイプのすきまに液体の流れがないことを窺わせるような記載はなく、かえつて、「吸入口4、吐出口5の間を出来るだけ短かくする」(明細書第四頁第四、第五行)、「吸入口4と吐出口5を近ずけることが出来る。」(同第四頁第一八、第一九行)、「吸入口4、吐出口5の接近を計つた」(同第五頁第六、第七行)旨記載され、また、第五図について、「吐出口5は吸入口4より細くノズル状とし・・・・本管の流に対し成可く鋭角で・・・・当る様にしなければならない。」(同第五頁第一一行ないし第一六行)旨、更に、そのような構成にすることによる作用効果について、「この様なことが理想的に行われると流体の一部も吸入流から吐出流へ直接流れる様になり、中間加圧部でのカプセル7は極めてスムーズに流れ(る)」(同第五頁第一九行ないし第六頁第二行)旨それぞれ記載されていることが認められ、右記載内容によれば、本願発明においては、吸入口の前縁と吐出口の後縁との間にはすきまがあり、そこを本管の流体の一部が流れているものと認められ、また、そのすきまの程度については、もともと管の大きさ、流体の量、管外加圧装置の強さ等の要因に左右されるものであつて、これを数字的に明示することはできないことから、前示のとおり、「出来るだけ短かくする」、「近ずける」、「接近を計つた」とするほかはなく、本願発明の構成について、「吸入口の前縁と吐出口の後縁が接する」とすることはできず、「吸入口の前縁と吐出口の後縁が接する様に」するとせざるをえなかつたものと解され、以上を総合すると、本願発明の要旨にいう右の「接する様にし」という文言は、前記諸要因との関係上許容される限度まで吸入口の前縁と吐出口の後縁とを近接させるとの趣旨であると解するのが相当であり、したがつてまた、本願発明の要旨にある「被輸送物が吸入流から吐出流へ直接移送させる様にし」という文言の趣旨も、前記のとおり、吸入口の前縁と吐出口の後縁とを近接させたことによる結果として、あたかも被輸送物が吸入流から吐出流へ直接移送されるかのようになることから、これを右のように表現したものと解すべきであつて、吸入口の前縁と吐出口の前縁とが全く接していること、又はある間隔があつてもその間に液体の流れがないことを意味するものと解することはできない。
他方、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例は、本願発明の特許出願前の昭和三七年九月七日特許庁資料館受入れに係るダム、滝などに遡行する魚を助ける魚道に関する発明の明細書であつて、それには、本件審決認定のとおりの管外加圧により、導水管の下方位置から上方位置に向けて連続的な水の流れを形成し、その導水管中を下方から上方に活き魚を泳がせて移動させる方法が記載されており、これを本願発明と対比すると、引用例の発明は、流体によるパイプ輸送において、本願発明の本管に相当する導水管の一横断面上に、本願発明の吸入口に相当する吸水孔の前縁と吐出口に相当する吐出孔の後縁とを後記認定のとおり近接させて配置し、被輸送物である活き魚が前示の本願発明の要旨の文言にいう趣旨で吸入流から吐出流へ直接移送されるようにした中間加圧の方法であることが認められるから、本願発明と引用例記載の発明とは、技術的構成及び作用効果において異なるところはなく、両者その技術的思想を同一にするものと認めるべきである。
原告は、引用例記載の方法においては、吸水孔が縦横に分散していて、吸水孔の前縁と吐出孔の後縁とは接しておらず、吸水孔と吐出孔との間に若干のすきまがあつて、吐出流は逆流し、導水管には連続的な水の流れは形成されていないので、引用例記載の方法は元来実施不可能である旨主張するけれども、前掲甲第三号証(特に図面第二図及び第三図)によれば、図面引用例記載の方法においては、昇圧用ポンプ装置の吸入部に導水管の前後方向にわたつて多数の小孔38(本願発明の吸入口に相当)が配設されており、その多数の小孔38から入つた水がポンプの吸入部で吸入されるが、これらの小孔38は全体として吐出孔に近接した位置に設けられており、導水管の水を吸入するについて本願発明の吸入口と作用効果において異なるものと認めることはできないから、引用例記載の発明においても、本願発明と同様、吸水孔の前縁と吐出孔の後縁とは近接して配置されているものというべきであり、したがつて、吸水孔の前縁と吐出孔の後縁との間にすきまがあることにはなるが、引用例記載の発明においても、前認定のとおり右のすきまの部分を含め、連続的な水の流れが形成されているものということができる。この点につき、原告は、本願発明において、吸入口と吐出口との間にすきまがないことを前提にして、吐出流が逆流することはないが、引用例記載の方法においては、右のすきまがあるから、吐出流が逆流する旨主張するが、前説示のとおり、本願発明においても、右のすきまがあり、しかも吐出流の逆流はなく、そのすきまを本管の流体の一部が流れるものであるから、引用例記載の発明において吸入孔と吐出孔との間にすきまがあることを理由として連続した水の流れがないということはできない。なお、成立に争いのない甲第一二号証の一のA、B、C、同号証の二ないし六並びに原告の試作に係る模型による実験の様子を原告が撮影した写真であることについて争いのない甲第四号証の一ないし三、第五、第六号証の各一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし五、第一一号証の一ないし三、第一三、第一四号証、第一六、第一七号証、第一九号証の一ないし三及び第二〇号証の二によれば、本件に関する実験の結果が写真撮影されていることが認められるが、引用例記載の発明に関していえば、その実験は、引用例記載の方法におけるのと同じ導水管、昇圧用ポンプ装置等を用いて行われたものとは認められないから、右の実験の結果をもつて直ちに引用例記載の発明においては連続的な水の流れがなく、同発明は実施不可能なものであるということはできない。したがつて、原告の叙上主張は、採用の限りでない。
してみれば、本願発明をもつて引用例記載の発明と同一であるとした本件審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はないものというべきである。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武居二郎 裁判官 清永利亮 裁判官 川島貴志郎)
別紙図面 (一)
<省略>
別紙図面 (二)
<省略>